日々のてまひまの日々

ふくしの世界は変わるのでしょうか?日々のてまひまの1年間を、ふりかえりました。(前編)

株式会社ふくしごとが結成されて1年が経ちました。
一周年を迎えた記念すべき日に、株式会社ふくしごとのメンバーが集結。てまひまかけて駆け抜けてきた、この1年間をふりかえるべく座談会を開催しました。

前編:ふくしと’出会いなおす’1年
後編:求む! 出会いなおしのリアルな場


株式会社ふくしごとのみなさん。左から橋爪さん、先崎さん、渡邊さん、山内さん、樋口さん、焼山さん

ふくしと’出会いなおした’1年間

この1年間に手がけたプロジェクトをふりかえりながら、「日々のてまひま」がプロジェクトを通して伝えたかったこと、社会や福祉施設への手応えなどを伺いました。

施設と社会を、’ユーモア’でつなげたい

アナバナ)2015年2月からはじまった「日々のてまひま」。この1年間の活動に込められた共通の「思い」についておしえてください。

樋口)「ふくしごとのメンバーの大半は、福祉とは全く関係のない仕事をしているんですが、この一年、それぞれの本業をこなす傍ら、福祉施設の現場に通う機会を意図的につくっていただきました。僕も最初はそうだったんですけど、はじめての福祉施設って、すごくドキドキするんですよ。障害者福祉って「ドキドキしちゃいけない。優しくないと関われない」みたいなイメージがあるじゃないですか。
障害者と’緩やかにつながる’とか、’ユーモアで関係が成り立つ’とか、そのやり方をけっこう知らないんですよね。「こんな風につながってもいいんだ」っていうことを、福祉施設の現場で実体験したメンバーたちが、「日々のてまひま」を通して伝えていけたのではと思います。


株式会社ふくしごと副代表 樋口龍二さん(NPO法人まる代表)。1998年より『工房まる』で障害者福祉に携わる。2007年に『NPO法人まる』を立ち上げ、障害のある人と社会をつなげるコーディネーターとして活動中。

アナバナ)ユーモアで社会と繋がる。というと?

樋口)「日々のてまひま」が最初に手がけた、パスタの商品がまさにそれですね。施設の障害者たちの写真に、障害のあるアーティストが落書きしたんですけど、これ、かなりのチャレンジだったんですよ。みなさんには「クール!」って言ってもらえて、一歩前進できたと実感しました。そんな小さなことから、障害者福祉に対するイメージを変えていくことが、すごく大事なんだと思います。


パスタを製作する福祉施設の愉快な日常を紹介したパンフレットには、工房まるのアーティストによって大胆な落書きが施されました。

昨年夏に発売された「はちみつパイセット」でも、同封のパンフレットで施設のものがたりを発信。商品の裏側にある「福祉施設のちょっと愉快な日常」をみなさんに知ってもらいたいという思いが込められています。今年2016年6月中旬からも限定販売予定

ひとりの幸せが 点になってつながっていく

アナバナ)プロジェクトを通して、社会や福祉が「変わった」と感じられた点はありますか?

橋爪)社会とか福祉施設ってそんなに簡単には変えられないんじゃないかなと思うんです。もしかしたら僕らが生きているうちには大きく変わらないかもしれないけど、「福祉を変える‘きっかけ’」にできたらいいなとは思います。いろいろな活動の点と点がつながって変わっていくのかなと感じていますね。


株式会社ふくしごと代表 橋爪大輔さん(株式会社ダイスプロジェクト代表)。福祉施設が自立的な事業をする上で抱えている様々な問題を解決するため、樋口さんとともに株式会社ふくしごとを立ち上げました

アナバナ)では、「点で変わった」ことを実感されたエピソードはありますか?

橋爪)久留米でのウォールアートプロジェクトでイラストを描いてくれた、福祉施設『スタジオnucca』のアーティストさんの話がいい例です。彼は精神障害を患っていて、初めてお会いした時は、たまにニコッと笑う程度で、あとはじっと座っているおとなしい男性だったんです。それが、現地で絵を描き始める頃から、少しずつ周りと馴染めるようになってきて。4ヶ月後の完成イベントのトークライブに登壇して、みんなの前で軽快に話をするくらいに変わったんです。

樋口)そうそう。トークライブをした3人の中で一番堂々としてましたね。しかもトークライブでの彼の第一声が「ハッピーです!」って言葉で。それを聞いた時に、泣きそうになりましたよ。「楽しかった。これからも書き続けたい。自信になった」と。

アナバナ)ウォールアートが良い刺激になったということですね。

樋口)彼は色がはっきりと区別できないらしく、常に施設の職員さんに「この色で合ってますか?」と確認しながら絵を描いていたんです。それが、「聞かなくてもいいんだ。自分らしくやっていいんだとわかった」と言っていて。
生きていくってそういう事じゃないですか? それを普通に感じてくれたことが、すごく嬉しいですね。


福祉施設『スタジオnucca』が描いた、賃貸物件階段室のウォールアート。わくわくするデザインで、今までの階段室の雰囲気をがらりと変えました。

樋口)わたしたちのプロジェクトによって「ひとりの人が自分の幸せに気づく」っていう事実が1000件2000件と増えていくことで、最終的には福祉や社会が変わっていくのではと思うんです。

橋爪)今の「普通の状態を体験する」ということでいうと、彼、今回のプロジェクトですごくテンションが上がったんです。だから「日常での浮き沈みが激しくなっている」という話が施設の職員さんからありました。
上がったんだから、当然沈むんですよね。だからこそ、そこをしっかりとケアするために、福祉のプロである施設職員さんがいるわけです。
社会との新たな体験や関わりを作っていくっていうのが僕らの役目で、その日常をサポートするのが施設職員さんの役割。支援する側とふくしごととの連携が大切だなと思いましたね。

樋口)福祉施設って日常のケアに加えて、商品開発も販売も何でもやってるんですよ。だけど、餅は餅屋。施設職員は福祉のプロでいいんです。で、商品の販売やデザインなどノウハウがない部分をふくしごとが補っていく。これがまさに理想だなと思います。

山内)僕らは、精神障害のある方が「なんの刺激も受けず平穏に暮らすこと」をよしと考えてはいません。それよりは「人前に出て評価される」とか、「評価を受けて、浮いたり沈んだりする」っていう私たちが日常でごく普通に経験していることを同じように経験することが大事だと考えていて、僕もそこに共感していますね。


コミュニケーションディレクター 山内泰さん(NPO法人ドルネモ代表)。様々なコミュニティデザインにとりくんできた経験を生かし、施設と社会とをつなぐ場づくりをおこなっています。

山内)一般的な福祉業界っていうのは「波風立たないように。障害者がショックを受けないようにしよう」っていう「当たらず障らず」というスタンスでケアをやってきた面があります。今までとは違う社会との出会い方を通じて、あらたな可能性に気付くことが、ふくしごとが考えている「福祉を変える」というイメージなんですよね。
「波風立てないほうがいいと思ってたけど、そうじゃなくてもハッピーになれるんだ」ということに本人も周りも気付いていく。それを出会いなおしと言っているんですよ。

アナバナ)なるほど。「出会いなおし」ですか。

山内)「ふくしごとは、福祉や社会とどう関わろうとしているのか?」ということを、みなさんと話し合っていた時期があって。ある時に「福祉と出会いなおす」というコトバが出てきて、ストンと腑に落ちたんです。「福祉といろんな人たちが今までと違った形で出会いなおす。出会いなおしの場を作るのがふくしごとなんだ」と。だから商品開発だけでなく施設のコンサルもする。今までとは違った形で、福祉や障害のある人たちと出会う場づくりをしていくところなんだということが見えた感じですね。


障害のある人やその周りで生まれる魅力的なプロジェクトや取り組みを紹介するGood Job!展2015-2016にて、ふくしごとの取り組みが「Good Job! アワード」に入選しました。

アナバナ)「日々のてまひま」では、ウォールアートのようなアート系のプロジェクトが多いような気がするのですが、意識的にされているのですか?

樋口)アート活動って、障害のある人にとって最高のケアだと思うんです。なんてったって自由じゃないですか!その人らしく表現されているものを世に送り出せる。それが認められるっていうのは、彼らの存在そのものを認めることにつながるんです。さらに、障害者自身だけでなく家族や兄弟など身内の感情までも変わっていくのですから。

橋爪)自由に自己表現したことが世の中に評価されて、社会と関われるっていうのは、アートだからこそできること。「日々のてまひま」が、形にはまった単純で機械的な作業のみの仕事を採用していないというのは、意識こそしてなかったけど、必然的なことだったんじゃないかな。


国体道路沿いで工事が行われていた旧児童会館(現:西鉄天神CLASS)では、工事現場の囲みに福祉施設『アトリエブラヴォ』とコラボレーションしたウォールアートが期間限定で出現しました。

福祉施設『工房まる』のアーティストが、実際にスーパーでスケッチした野菜などのイラストを使った「日々てま ごはんマット」を製作。エフコープ生協城南エリアで限定販売しました

山歩き専門誌『季刊のぼろ』の読者プレゼントで作成した「山ノート」でも、障害のあるアーティストの描くイラストを採用。独特のタッチが評判でした

今年の2月・3月に、福岡市内の3つのカフェでリレーアート展「日々描く」を展開。福岡を代表する3つの福祉アート施設の、個性あふれる絵画やオブジェがカフェをジャックしました

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