「空き家」をテーマに地域活性化に取り組む方々の生の声を聞くセミナー〜前編〜

2016.03.31 LOCAL BUSINESS × FUKUOKA 福岡市農山漁村地域活性化セミナー VOL.1「福岡市ならではのローカルビジネスを始めよう」「空き家」をテーマに地域活性化に取り組む方々の生の声を聞くセミナー

2016.03.31(木)

2016年3月31日(木)、年度末の最終日にも関わらず、福岡市中央区大名のカフェ「HABIT」には60名を超える参加者が集い、「福岡市農山漁村地域活性化セミナー」が開催されました。

福岡市では、人口が増え続ける市内中心部に比べて、人口が減少傾向にあり、少子高齢化も進んでいる農山漁村地域の活性化を図るため、民間のさまざまな取り組みを応援していくことにしています。第1回目となった今回のセミナーは「空き家活用」をテーマに、空き家やリノベーション技術を活用して地域活性化に取り組んでいる3人のトークと、参加者によるグループディスカッションを開催。参加者も交えて活発な議論が交わされ、熱気のあるセミナーとなりました。示唆に富んだ当日の模様を、お伝えします。


福岡市制作のスライドより。都市部と山間部をコンパクトに共存させる都市構造を維持するため、市街化を抑制されている「市街化調整区域」では人口の減少と高齢化が進み、地域の産業や祭りなど、地域社会を維持していく活動に支障が出てきている

写真:山口覚

山口覚(やまぐち・さとる)

1969年、北九州市生まれ。創造的活動交流拠点津屋崎ブランチ代表。九州芸術工科大学卒業後、鹿島建設入社。2002年、鹿島建設ランドスケープデザイン部からNPO法人地域交流センターに転職。全国各地の地域づくりに携わる。2005年、自ら地方に身を置いて活動しようと福岡へUターン。2009年には福津市津屋崎の小さな海沿いの集落に移住し、「津屋崎ブランチ」を立ち上げ。空き家の再生・活用、対話による町づくり・小さな起業家育成などを行い、6年で200名以上の移住者を招き入れ、20人の起業家を生んだ。現在も、地元の人達と地域の未来をつくる取り組みを続けている。

写真:山下智弘

山下智弘(やました・ともひろ)

1974年、奈良生まれ。リノベる株式会社代表取締役。大阪のゼネコン企業で働きながら、物件の価値を高める手法の一つとしてリノベーションに着目。2004年、住宅・店舗の設計施工を行う株式会社esを設立。2010年、リノベーションを専門に行うリノベる株式会社を設立。WEB上でマッチングを行うリノベーションのプラットフォームサービスを展開。定額制・セミオーダー制・専用ローンのサービス等を武器に、全国でエリア展開中。現在は全国に19箇所のショールームを持つ。

写真:古橋範朗

古橋範朗(ふるはし・のりあき)

1982年、京都生まれ。株式会社畔道代表取締役社長。立命館アジア太平洋大学卒業後に上京。ベンチャーの不動産会社を経て、西国分寺の「クルミドコーヒー」にオープンスタッフとして参画。カフェによって町に化学反応が起こっていく過程を目の当たりにする。2013年1月、結婚を機に、福岡県福津市津屋崎に移住。2013年8月に株式会社畔道設立。家や地域と共にある”人の暮らし”を大切にする不動産業「暮らしの問屋」を立ち上げ、「家に住む」ことより以前に「地域で暮らす」ことの魅力を紹介している。


セミナーは午後6時半よりスタート。まず、福岡市より市街化調整区域と今回のセミナーの主旨説明があり、続いて自己紹介も兼ねてゲスト3名によるトーク。山口覚さんがファシリテーター役を務め、それぞれの活動紹介と考え方に焦点を当てて話が展開されました。


地域がハッピーになりビジネスもハッピーになる関係

山口さん(以下山口)今日は、空き家の活用による地域活性化をテーマに、この3名で話し合う機会をいただきました。山下さん、古橋さん、よろしくお願いします。

山下さん(以下山下)、古橋さん(以下古橋)よろしくお願いします。

山口私は、津屋崎の「町づくりファシリテーター」として、まちのあるべき姿や未来を創っていく活動を続けています。しかし、まちづくりとは何かをあらためて考えてみると、難しいんですよね。人口を増やそう、空き家を活用しよう、それが本当にまちづくりなのか。人口は減っても、幸せに暮らせればいいという考えも、あるかもしれません。ビジネスのために地域を利用していいのか、逆に地域のためにビジネスを利用するのか。地域がハッピーになり、ビジネスもハッピーになる、そんな新しい関係とは何かを、模索しながら活動しています。山下さんは、先にビジネスの仕組みを作り、それを全国の地域に当てはめるという形で事業を展開されていますね。

山下そうです。地域の不動産屋さんが持つ物件とその地域で借りたい人を、WEB上でマッチングするプラットフォームサービスというのが、私たちの仕事です。そして、ネット上でのマッチングだけでなく、実際のリノベーションの施工までの工程を担う、O2O(Online to Offline、ネット上からネット外の実地での行動へと促す)ビジネスです。半分はIT企業であり、半分は設計施工を担う企業でもあります。

山口なるほど。一方で古橋さんは、地域から発想してビジネスを作っていく活動をされてますね。

古橋ええ。ふつう、不動産屋の仕事といえば家を紹介することですが、私の場合はまず地域のコミュニティと、そこで生きる人々を紹介し、「家に住む」より「この地域で暮らす」こと自体を紹介しています。津屋崎には空き家が多くありますが、賃貸に出ている物件はあまりありません。それは、「改修費が払えない」とか「見ず知らずの人に貸したくない」といった、金銭面や心理面で不安を抱えている所有者が多くいるからです。そこに私が入っていき、丁寧にお話を聞いて信頼関係を築き、貸し出せる現実的な提案をして、借り主とマッチングしていきます。不動産を売りにして人を地域に呼び込むのではなく、まず人と人を繋げ、コミュニティの価値を高めることで、この地域で暮らしたい人を増やしていく、そんな活動をしています。

山口山下さんの事業は、人口が集積している都市部の方が、収益を上げやすいと思うんですが、農山漁村地域にどんな可能性を見ているんでしょうか?

山下確かに、不動産の売買や賃貸を収益にしていたら、手数料収入が高い東京に資本を投下しますが、私たちは地元の不動産屋さんとタッグを組んで、お客さんとの間に立つ仲介料で収益を出しているので、都会に限らず日本全国でサービスを展開できるのが強みなんです。

山口地元の不動産屋が頑張ってくれれば、自分たちも収益が上がると。

山下ええ。それから、「リノべる大学」という情報共有会も行っています。例えば、仙台の施工業者が音の出にくい解体方法を見つけたら、それを他の地域にもなるべく早くシェアしていく。モノづくりをやっている人は学ぶ姿勢の高い人が多いですから、みなさん意欲的に参加してくれます。

古橋山下さんのやり方は、地域の不動産や工務店との共同や協力体制が、とても参考になりますね。「リノベる」とうまく力を合わせていけば、自分たちにとってもメリットがあるというムードを生んでいければ、好循環になりますよね。

渋谷駅から徒歩8分という好立地にある山下さんの自邸。リノベーションが好評で、いまは会社に貸し出しショールームにしている

山口「リノベる」の場合、WEB上でマッチングといっても、WEBですべて完結できるわけではないですよね?

山下ええ。ライフタイムバリュー(一人の顧客から得られる一生涯での価値)を考えると、洋服のように生きていれば何度も買うという性質のものではないので、選択は慎重になります。だから、全国にショールームを構え、実際に見てもらうようにしていますし、背中を押すような役割のコーディネータもいます。

山口この地域に住みたいと思う人に、「リノべる」を利用してもらうように、宣伝していくわけですね。しかし、そもそもの前提として、この地域に住みたいという人を生み出し、増やしていく必要があると思います。その活動をしているのが、古橋さんですね。どうやったら若い人が地域に来てくれるのか、寄りたくなる街と行きたくない街の境目はどこにあるのか、古橋さんはどう考えていますか?

古橋僕はやっぱり、人の魅力だと思います。たとえば面白い農家さんや漁師さんがいるとか。誰かがいるからこそ、行きたくなるし、住みたくなると思います。

山口確かに、自然の豊かさだけを求めるなら無人島でもいいはずですけど、無人島には住みたくないですからね。

古橋そうですよね。

山口それから、便利かどうかという観点も、気をつけないといけません。うちの町は不便だから人が来ないんだ、バスを増やせ、道路を広げろ、という意見をよく聞きますが、果たして便利なほど人は集まるんでしょうか?

古橋そういう意味では、津屋崎の場合、津屋崎駅がなくなってよかったと思っています。確かに不便にはなりましたが、代わりに面白いローカルビジネスしか起こらなくなってきました。

山口地域を消費するようなビジネスが、リーチしてこなくなったわけですね。

古橋ええ。僕が東京の西国分寺にいた頃、駅が全面的に改装されたんですが、どこでも見かけるチェーン店ばかりがテナントに入って、逆に地域の魅力が半減したように感じました。メジャーじゃないけれど面白い、というものをいかに面白がれるかが大事だと思います。

山口「都会に人が集まる」と言われて、だから「わが町にない都会のものを持ってきて人を呼び込もう」という発想になってしまうんですが、それは人口が増えている時の発想ですよね。これからの人口が減っていく社会で、利便性を好む人は最初から都会に住みますから、わざわざ田舎に住もうという人には、田舎であることのよさを示さないといけない。家賃補助を出して人を呼んでも、家賃補助に釣られて来る人は、補助がなくなったら出ていってしまいますから。家賃は高くても代え難い魅力があるから、こちらを選択しよう、そういう魅力が必要ですね。

古橋価値観を変える提案が必要ですよね。安いか高いかという価値観で言えば、田舎の仕事の方が高くて、非効率な場合が多くあるんですが、僕は人に払いたい、という気持ちがあります。このお金が大企業に吸われるよりも、地元で頑張っている友人にお金が落ちた方がいい、というような。

山口なるほど。いま、価値観の話をしているわけですが、「リノべる」も人々の家に対する価値観の転換があったから成り立っている仕事ですよね。

山下その通りです。僕らは、価値観の転換のきかっけを作る仕事だと思っています。例えば、ヨーロッパでは家は直しながら住み続けるものですし、日本でも戦前までは先祖代々の民家を大事に使っていました。戦後に、新しい家をどんどん建てて、新しい建材も出てきて、新築がいいものという価値観が定着しましたが、本当にそれがいいんですかという問いかけを、事業を通じてしていると思っています。リノベーションが面白いのは、使える素材を残してリノベーションすることで、新築にはない独自の魅力や価値を生み出せることですから。

山口そういう意味では、このお二人の仕事は一見異なるベクトルに見えますが、実は新しい価値の問いかけをしているという点で、共通していますね。

トーク後の懇親会に参加する古橋さん。京都出身ながら、津屋崎に魅せられて移住してきたうちのひとり

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