レポート

福岡市の中心にある警固神社が2016年より新たなデザインへ。社紋を一新し進みはじめた一歩とは?

旧年の無事を報告し新たなはじまりを祈る。初詣にこれから神社へお参り、という方も多いのではないでしょうか?

神社に足を運ぶと目にするのが「社紋」。神社の顔となる社紋の“デザイン”が変更されると聞き、福岡市中央区天神にある『警固(けご)神社』へ行ってまいりました。1608年に黒田家が福岡城築城を機に遷座されたという、長い歴史を持つ由緒ある神社です。407年も守られてきた社紋を変えちゃって、バチとかあたらないんですか?と心配しておりましたが、経緯を伺い、なるほどと納得。神社という場所にあらためて関心を寄せる機会をいただきました。

お話を伺ったのは、警固神社の前田安文宮司、空間デザイナーの関祐介氏、そしてブランディングデザインを担当された株式会社エイトブランディングデザインの西澤明洋氏です。

今回新しくなった社紋は警固神社の「固(まも)る」の字を抽象化させたもの。「警(いまし)め 固(まも)る」という神社のメッセージが込められ、四隅で囲まれたマークには地域を見守る存在である警固神社がまっすぐに表現されたわかりやすく印象的なイメージです。2016年1月から、まずは社殿の垂れ幕や11本ののぼりに施され、これから数年をかけて、新しい社紋とともに、少しずつ建物などの改修を進めていく計画です。

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新しい社紋が入った社殿の垂れ幕

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社殿の瓦にあしらわれている旧社紋は黒田家の武家紋「下がり藤」。警固神社の本紋として今後も継続して保存されるそう。武家紋ではなく警固神社としての紋にメッセージを込めたいと、社紋を変更することに

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左から関さん、前田さん、西澤さん。恥ずかしいと照れながらも撮影の申し出に応えてくださいました

神社を後世に伝えていける場所に

ここで触れておきたいのが、プロジェクトの背景について。警固神社は天神の中心部、駅や商業施設が隣接し、地区内外から人が集まる場所の中心に位置します。

2005年に福岡県北西部で起きた西方沖地震では、地元だけでなく全国から集まった被災を案じた励ましの手紙や寄付に支えられながら、復旧することができたと前田さんは感謝の思いを口にします。また、神社北側に隣接する警固公園は、昼夜人が行き交う都会の公園らしい活気ある場所。かつては“犯罪のデパート”とまで言われ、治安に不安のある公園でしたが、2012年に全面改装され、憩いの場として開かれた公園へと生まれ変わります。

長い歴史を守りながらも、日毎に変化する神社を取り巻く環境を前に、都会の中心にある神社を守る宮司として、「今、神社として何ができるのか?」と前田さんは思い直したそう。

そんな中、「神社の存在意義をあらためて考えて、後世に伝えていける場所にしたい」と、前田さんがパートナーとして選んだのがエイトブランディングデザインの西澤さんでした。数多くのブランディングデザインを手がける西澤さんですが、神社という宗教関係のお仕事は今回が初めて。神社が地域と密接に関わっている文化活動の場所であるという前田さんのお話を受け、今神社が向かうべき方向性について、半年をかけて議論を重ねたそう。そうして、企業でいうところの“ブランドコンセプト”である社訓の作成に取り掛かりました。「元々、日本の神様はすべての信仰をもつ人たちを守るという存在です。地域のみなさまはもちろん、全国の方にもそのことを知っていただくために、親しみやすい社訓にと、宮司やスタッフのみなさんと一緒に考えました」と西澤さん。やわらかな言葉とともに、警固神社の存在感がじんわりと響く社訓です。

■警固神社の社訓はウェブサイトで読むことができます

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社殿南側には公園と直接行き来することのできる入り口が作られ、気軽に立ち寄ることができます

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境内には無料で利用できる足湯も!まさに市民の憩いの場としてふさわしい立ち寄りスポットです。お参りの際はこちらにもぜひ。いい湯だなあと思ったら、設置されているお賽銭箱にお気持ちを〜

そうして、社訓をメッセージ化させていく社紋のデザインが進んでいきました。永く親しんでもらえるようにという思いでデザインされた社紋は、神社の新たなシンボルとして、おみくじやお守り、手ぬぐいなど約40種類の需要品に展開されます。

さらに、プロジェクトが進む中で、西澤さんからの提案で社殿南の今益稲荷神社も同時に新たな社訓と社紋が作られることに。社殿奥では、一般的な稲荷神社の凛々しい表情ではなく、にこやかに笑ったおきつねさんがご鎮座しています。2体は”笑いきつね”として訪れる人を楽しませてくれます。全国的にも珍しいきつねをモチーフに、空間デザイナーの関さんによる「投げ銭式賽銭箱」のアイディアや小さいお子様にも喜ばれそうな笑いきつねみくじなども登場しました。

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絵馬台も新しくなりました。絵馬の裏側には社紋があしらわれ、おみくじと合わせて季節ごとに色が変わる仕掛けもあるそう。いつ訪れても新鮮な楽しみが待っているという細やかな工夫に親近感が湧きます

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博多織で作られたお守りは世界初(おそらく)。「固」のモチーフを用いた可愛らしいデザインは、熱心な織元さんとの試行錯誤の末、ようやく完成に至ったそう

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今益稲荷神社のおみくじや笑いきつねをモチーフにした需要品など。おみくじは1回100円、木の置物付きで500円という安心価格なのも嬉しいですね

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今益稲荷神社の奥に鎮座する笑いきつね。笑ってる!ご利益がありますようにと顔を撫でていく人が多く、お顔がつやつやピカピカです

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一歩外に出ると観光や買い物客でにぎわう天神の中心部。鳥居下にある木枠の置物は今回新たに設置される「車止め」。関さんの手によって、都会の中心にある神社らしい洗練された工夫がランドスケープの視点からも施されます

「地域のお役に立つ神社という志を持って、歩みを止めずに進んでいきたい」と力強く話す前田さん。宗教離れや人口の減少など、これからますます肥大する課題は神社にとっても例外ではありません。では神社が地域や訪れる人たちとどうつながっていくのか? 現状を前向きに捉え、一歩ずつ前進しようとする前田さんをはじめとした警固神社のみなさん、その思いをそっと後押しする西澤さんや関さんという伝える力を強くしてくれるパートナーの存在。警固神社は着実に次世代に受け継がれようとしています。

警固神社では、天神地区6つの神社と手を取り、5年前から「月華祭」というお祭りを開催しています。豊年祭と人々が賑やかに集う場として、スタートさせたそうした取り組みをする警固神社は、新しい社紋とともに、益々発展していくという期待感に満ちていました。

初詣に、新しい社紋と共に迎えてくれる警固神社へ足を運んでみてはいかがでしょう?ちなみに、警固神社には「悪いことを良い方向に導いてくれる」という神様がおられるそうです!ありがたやありがたや

(取材/編集部 曽我)

■ 警固神社
福岡市中央区天神2丁目2−20
http://www.kegojinja.or.jp/


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