福岡県の西部に位置する糸島市の芥屋海水浴場にて、夏の終わりに開催される「Sunset Live2015」。2002年にスタートし、今や3日間の来場者数が20,000人を超えるという、九州を代表する一大音楽フェスです。芥屋海岸をのぞむ開放的なロケーションの中で、糸島のおいしいフード片手に音楽を楽しむというイメージが強いサンセットライブの会場で、なにやら興味深いアート活動がおこなわれるということで、現場にお邪魔しました。
材料の漂流物は、私たちの暮らしを支えてきたはずの物。作品のコンセプトは、『人間の身勝手さで捨てられたゴミ達が、 幾多の海と途方も無い時間を漂い海岸に流れ着き、Sunset Live会場に集結』という、皮肉な現実から着想されたもの。「自然物を使うこと」を創作のモットーとしている永さんにとって、廃材や流木、道に落ちているものも自然物のひとつです。普段、絵を書くキャンバスも、流木にひと手間加えて作り上げてしまうそう。今回、サンセットライブへの出展を打診された時に、「バベルの塔を作ってみたい」とうっかり口を滑らせたのがきっかけで、自身の美術家人生でも初となる、巨大モニュメントを制作することとなったんだとか。
ゴミを用いた現代版バベルの塔とも言えるこの作品。見ているうちに、海辺に打ち上げられたゴミ達が、「近年の異常気象や温暖化は人間の生活と地続きだ」ということを教えに来ているようにも見えます。「美しい海あってのサンセットライブ。だからこそ、音楽を楽しむ合間にこの塔を見上げることで大量消費や自然破壊について少しだけ思いを巡らせて欲しい」と永さんはこの塔の意味を言葉にしてくださいました。
今回、永さんに作品制作をオファーしたサンセットライブ主催者の林憲二さんは現役のサーファーでもあります。糸島の素晴らしい自然を次世代へ残したくて、自身の経営する「Beach Café SUNSET」の小さな駐車場スペースからサンセットライブは始まりました。
今ではクリーンな野外フェスの先駆けといわれるほど、全国的で、”美しい野外フェス”としても有名になりました。イベントをすれば必ず出るゴミに対して、作り手だけではなく来場者や出演者へもリユースやリサイクルを促す徹底ぶりでゴミの削減運動を行っています。サンセットの会場を歩くと、驚くほどゴミが落ちていない、捨てられていないことに気づきます。スタッフの努力、来場者の協力がなければ実現できないこと。これって当たり前のことだけど、とてもすごいことではないでしょうか。
「福岡は海に面した土地、このオブジェをライブ会場で見ることで、素晴らしい音楽とともに自然が置かれている現実も感じてほしい」と林さん。このバブルの塔はサンセットライブ開催中の3日間だけの儚い命でした。
来場されたみなさま、漂流物達の雄姿(作品)に足を止めて、見上げてくださいましたか?
後日談ですが、「サンセットライブの3日間が終わり、取り壊されたバブルの塔が”本当のゴミ”に還った姿を目にし、若いスタッフの方達は唖然としていた」と、制作者の永さんからご報告をいただきました。永さんは、「最初は塔の存在に圧倒されていたけど、 何度となく見ているうちに暖かい気持ちになってきた」とスタッフに言われた時、次世代にちゃんと思いは伝わっているんだと感じたそう。漂流物達もサンセットライブの会場(芥屋海岸)にたどり着いた甲斐がありましたね。
来年の開催がいまから楽しみです。
(取材/とよだあやこ)※写真の一部はKousei Aritaさんにご提供いただきました